オリジナル お月様と眠り姫のお話

お月様と眠り姫のお話



「たいくつ」

なんて退屈なのだろう

あなたが見えない世界って


だけどあたしに今の生活を変えるつもりなんて、これっぽっちもない


あたしは眠り姫。

あたしに「起きている」時間はないの


そのことは皆知っているけど

皆が知らないことが、ひとつだけ



『ご機嫌よう、眠り姫』


ああ、もうこんな時間

でもまだ少し早いわね


「ご機嫌よう。昨日は会えなくて残念だったわ」

あたしは笑って言う

「今日はもう満月かしら?」

『いいや、まだ。明日はきっかり満月の日だよ』

「それじゃあてるてる坊主をたくさん作らなくちゃね」

彼がくすりと笑うのがわかった。

『そんなことをしなくても、明日は晴れるよ。大丈夫だ』



お月様

彼は、お月様なんだ

あたしのただ一人の、大好きなひと

世界でただ一人、眠り姫のあたしと話しをしてくれるひと



『昨日はどうしていたんだい?私と話せなくて退屈だったろう?』

「ええ、それは。だからあなたに教えてもらった星の名前を端から全部上げたわ」

『ほう。それは凄い』

「ねぇ、今日はどんなことを教えてくれるの?」

『そうだね、どんなお話をしようか・・・』



お月様のお話に退屈したことは一度だってない

彼は見たことを、聞いたことを、体験したことを

彼の言葉でお話にしてあたしに教えてくれる

それがあたしには世間で言う「勉強」という役割を果たしていた

それに、お月様はあたしの訊いた事には全部答えてくれるの

それが綺麗なことであろうと

例え目も背けたくなるような汚いことであろうと


だからあたしには、起きて学校に行く必要なんてないんだ



「・・・眠り姫のお話をして」

『眠り姫のお話かい?君はこの話が大好きだね

いいだろう、では眠り姫のお話を――昔々あるところに・・・』


お月様、ゆっくりお話を始める

あたしは、ゆっくり耳を傾ける

お月様の声は揺り篭みたいで心地良い


可笑しな表現だけど・・・

まるで眠ってしまいそうになるんだ



『眠り姫、眠り姫』

うとうとしかけたあたしをお月様が優しく揺らす

「大丈夫、起きているわ」

見ればお月様、大分高くに昇っていて、空もすっかり暮れていた

「あなたのそばに行ってもいい?」

『ああ、勿論』


あたしはとん、と窓の縁を蹴った

夜の冷たくなってきた風が、あたしを持ち上げてくれる


もっと、と願う

もっともっと、高く

もっともっと、彼に近いところへ――



ああ、でも


いつも

風が連れて行ってくれるのはいつもここまで


手を伸ばせば届きそうなのに、届かない



『君ほど賢い子が、惜しいと思うのだがなぁ』

ぽつりと、お月様は呟く

「何が?」

『君なら・・・この世界で、もっと色々なことを学べるのに』

「必要ない。あなたが教えてくれるじゃない」

『私は全てを教えてあげることは出来ないよ』

むすっとしながら膝を抱えるのはあたし

「いいの。あたしはあなたにだけ認められれば、それで

お金も地位もいらないもの。あたしの欲しいのは、あなたと一緒にいられる時間だけ」

本当よ

雨や曇りの日には会えないけども

それでも、あなたが「いない」訳ではなくて確かにそこに「いる」ことはわかるんだから

「あたしはずっとこのままでいい」


このまま

このまま、ずっと

あなたと二人だけの、幸せな世界に――


「ねぇ、お月様」

『なんだい、眠り姫』


うっとりとあたしの瞼が重くなる


「なんだかね、最近とても眠いの・・・寝ても寝ても、眠たいの・・・」

『ここで寝ては駄目だよ、風邪をひいてしまう。それに、君が戻れなくなる』


うん、とお月様の言葉に頷いて、あたしは素直にベッドに入った

撫でるように降って来る月光が温かくて、あたしの心が一杯になる


「ごめんなさいねお月様。折角今日は会えたのに・・・」

『いいんだよ眠り姫。明日も会える、ゆっくりおやすみ』

「ありがとう。また、眠り姫の話をしてね・・・おやすみなさい」

『・・・ああ、おやすみ』






あたしは夢をみていた。

夢の中にはお月様が出てきた。

あたしの夢に彼が出てくるのはこれ一度きりではなくて

でも、いつもとどこか違う、今日の夢の中のお月様。

今まで見せてくれた表情よりもずっとずっと優しく微笑んだお月様は

どこか寂しそうなの。


いつものようにあたしは言う




ねぇ お月様

あたし思うの

次に生まれるときには

もっと あなたのそばに――



眠いな、と感覚する

眠っているはずの眠り姫が「眠い」だなんて、可笑しいかしら?


でもいいわ

なんだかとてもいい気分だもの


次に目が覚めた時には

もっと

あなたの近くにいるような気がするの





虹色のまどろみが、「眠り姫」を包み込んだ。






おやすみ、おやすみ

眠り姫

どうか、良い夢を――






―END―

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