月のお題

枠に閉じ込められた (月のお題)

16:枠に閉じ込められた


(あなたがこの手に収まればいいのに)

我が侭な私の言葉にも、まるで動じもしない
そんなあなたが、私はすき


どこまでも自由で
どこまでも平等で
近くて、遠い存在



(私のモノになってよ、)


小さく呟く。

でも
あなたはまるで無反応


だから私は少しだけ、
ほんの少しだけ意地悪をするんだ


あなたを「枠」におさえつけて
その間だけは、私のモノにしてしまうの


私はそれだけで満足だった

その「枠」におさえつけている間は
あなたは私だけのモノだから。


背伸びして腕をいっぱいに伸ばそう
目をつぶって体中に光を浴びよう
膝立ちしてひたすらに祈ろう
ベッドに転がって、眺めよう――


(愛しい、私だけのアナタ)


どうかあなたも、
アナタだけの私として
私だけを見下ろしてくれればいい
私だけを光で照らしてくれればいい
私だけの祈りを聞いてくれればいい

(ああなんて、我が侭な願いだろう――)


そんな我が侭を言えるのは、本当はあなたが「無関心」でいてくれるからだって
わかっているから

あなたが私だけのモノになってくれることなど決してないのだと
わかっているから


そうして決まって
私は眠りにつくのだ。


叶わない願いと
切なる祈りを胸に仕舞い込んだまま

僅かに、仕舞い切れなかった感情を溢して――

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うつる (月のお題)

15:うつる


「月は“うつる”って知ってた?」

俺が彼女とデートするのは夜に決めているのには理由がある。
それは他でもない、彼女が無類の「月狂」だからである。
(月が見えると機嫌がいいんだ)


「うつる?」
 温度が奪われてきたコーヒー缶を揺らして、俺は月の周りに漂っている虹色を眺めていた。
(俺は月よりも太陽派なんだよなぁ)
 同じように温くなっているであろうココア缶を大事そうに両手で抱えて、彼女は小さく頷いた。
「うん。うつるの。まず、鏡に映る、水に映る、ガラスに映る……」
「それ、月じゃなくても映るだろ」
「違うもん。まだあるんだから! それからね、えっと……」
 今は満ち途中なのか、それとも欠け途中なのか、ぼんやりと思う。
(上弦の月って、どっちだっけ……)
「場所を移るわ。ゆっくり、一晩かけて旅をするの」
「太陽もな」
 欠伸をしながら言えば、「もう!」と彼女は眉を吊り上げた。
(月狂は、月と太陽を一緒にされると怒る)

「あ」

 何か良い案を思いついたように、彼女は唐突に笑った。
「もう一つ、太陽にはない“うつる”があるわ」
 昼間はなかなか見せてくれない、綺麗な笑顔――それを作れるのが俺ではなくて「あいつ」なのは、気に食わないが。
(でも俺は、この表情が好きだから、仕方なく、妥協するんだ)

「伝染る」


「………は? なに、うつる、って」
「伝染、って書いて“伝染る”。太陽は伝染しないけど、月はするの」
 どういう意味だ?
「病気?」
「違うわ。月が伝染るのよ。……ほら、あなたにも――」


深く覗き込んだ彼女の眼に、月が笑っていた
そして、
彼女の眼の中に映った俺の眼の中にも、同じ様に月が笑っているのが見える


「ふふ、ちゃあんと伝染ってるじゃない」

 嬉しそうに、彼女は言う。
 俺は緩慢に瞬いて、ああ、完全にコーヒーは冷めちまったな、と考えていた。

月狂って、わかんねぇ。

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月明かりの匂い (月のお題)

04:月明かりの匂い

「月明かりの匂いがするんだ」

わたしの真面目な顔を、私よりもよっぽどくそ真面目に見返して

「意味がわからん」

呟いた彼はそれでも嬉しそうに、わたしを抱きしめた



薄暗くなってきた世界の一角で
軽い足取りで家に帰るわたしを
微笑ましげに見てる、お月さま

「笑い顔だね」

へへ、と一人そんなことを呟いた。
わかる? と目を細め、気づけばわたしもおんなじ笑い顔。

「あのねぇ、お月さまぁ」

小さい子供のするように、くるりとスカートを翻してみせる。
注目を促すように、
少しだけ、挑発するように――

「彼ね――さっきの、彼。あなたと同じ匂いがするんだよぅ」

月明かりの。

言わずともわかるよね。
だから、言わなかった。

胸の辺りがくすぐったくて、わたしはまた笑って。

「嬉しいなぁ。まるであなたが、降りてきてくれたみたいなんだもの」

わたしの手が届く場所まで。
背伸びをしなくても触れられるところまで。

「でもね、言ったら意味わかんないって言われちゃったよー」

幸せ過ぎて死にそう、と思ったら、小石につまづいてよろけた。
そんなことも、今のわたしには嬉しさの材料にしかならないけども。


狂っている?

ええ、まったくその通り。



ぴたりと止まったわたしの目と
笑い顔のお月さまの目が
かち、と会うその一瞬間


「お月さま、わたしね、しばらくあなたに浮気しないことにしたの」

遠くで電車が走る音がした。

「だから今日だけ」

淡い月明かりの中
そっと口にした言葉
彼には秘密の、ただ一言

愛してます


背を向け駆け出したわたしには
優しい月明かりの匂いが染み込んでいた。

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宇宙にただ一つ、月 (月のお題)

03:宇宙にただ一つ、月


誰かが溢した闇色の水に
ひっそりと浮かぶ、光

雲はないけど
星も見えない
そんな、淋しい夜のこと


あたしは夜が嫌いだった

どうしてあんなに怖い色で空を覆ってしまうのだろう

早くあの色を拭きとって
水色の朝がくればいいのに――

そうすれば、なあんにも
怖い事なんてないのに、ね


夜が怖いのは
まるで自分一人だけ、その空間に取り残されたような錯覚に陥るから


だからあたしは
その感覚から逃げようと必死に目を瞑ってた
こんなの酷い錯覚だと、自分自身に言い聞かせるように


――ねぇ、どうしてそんなに怖がっているの?


そんな柔らかい声が降ってきたのは突然で
あたしはひとり、ぽっかりと浮かんだ光を見つけた



その日からあたしは、独りぼっちではなくなった

そして、その日から

あたしは夜がきらいでなくなったんだ

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あかるい月の日 (月のお題)

01:あかるい月の日


ふらりと逃げ出した夜の道

聞こえるのはあたしの足音と
息遣い
それから
遠くの森で鳴いている獣の声


逃げよう、と思った

どこへ? とは考えなかったけれど

何かもう、全てを投げ出して逃げてしまいたくなった

一体なにから逃げている
そんなの、わからない

見えないものなんて
姿のはっきりしていないものなんて、案外この世界には溢れているのだ

そんなのは重要じゃ、ない

今一番大切なのは
とにかく逃げること――

なんだか無性に、
泣きたかった

走っているから苦しいのだと
冷たい風が身体に入ってくるからだと
闇の深さが痛いのだと
そんな風に言い聞かせる


でも


泣き喚いてしまいたかった
この世界を
夜を

そうしなかったのは
せめて、これ以上惨めな姿を曝したくなかったから


「見ていてよ、お月様――」

あたしは走る

あなたが見ている以上、あたしは止まる事も
泣く事もできないのだから

あたしは、走る

立ち止まらない為に――


それはある
あかるい月の日のこと

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